データマイニングによるビッグデータの活用・4
データマイニングの活用事例をもう少しだけ取り上げ、続いて活用のポイントをまとめます。
インフラや金融・保険における活用事例
スマートメーターによる業務効率化とサービス向上・関西電力
電気料金の請求のために、検針員が一戸一戸の電力量計をチェックして請求料金を出す方式は、近年だんだんと減っています。アルミの円盤がくるくる回るタイプに代わり、最近はデジタル方式の電子式電力量計や、さらに通信機能を持たせたスマートメーターが登場しています。
このスマートメーターについて、関西電力は2023年度に契約者全戸に導入することを目標にしています。
スマートメーター全戸導入によって、日にち・時間帯別、天候・気温ごとの消費電力が電力会社のホストサーバー側で集計可能になります。「契約者全戸」ですから、一部をサンプリングしたデータではなく、一戸一戸それぞれの消費傾向も把握できるデータです。
このデータをもとに、天候・気温・時間帯ごとに対応した発電量を算定できるばかりではなく、契約者ごとの事情に対応したきめ細かい料金プランを提案したり、一戸一戸が消費電力を確認できる「見える化サービス」も提供できるようになります。
また、変圧器の容量も、現在はかなりの余裕を持たせたサイズとなっていますが、予測電力消費の計算が高精度になれば、適正な必要十分のサイズにできます。
こうした改善による効率化効果は、年間10億円ほどにもなると考えられています。
車載デバイスで保険契約者のリスク評価
アメリカの自動車保険会社 Progressive社は、契約者の自動車に通信デバイスを搭載し、その運転状況を常時監視、事故リスクを評価して保険料をきめ細かく割引するサービスを展開しています。
車載通信デバイスは、運転日時(頻度)、場所、スピード、急ブレーキの頻度などの走行データを随時本社サーバーに送信します。データは本社で蓄積され、6ヶ月ごとに各契約者の事故リスク判定ロジックに利用されます。この判定にもとづき、保険料が設定されることになります。
農業災害保険へのビッグデータ活用
こちらもアメリカの事例になります。農家・農作物専門保険会社である Climate Corporationは、国立気象サービスがリアルタイムに提供している地域ごとの気象データや、アメリカ農務省が提供している過去60年間の収穫量・土壌情報を利用し、地域や作物ごとの収穫被害発生確率を予測、保険料の算定につなげています。
国立気象サービス自身も、データベースサービスを提供しつつ竜巻や台風の発生予測を行っています。
ビッグデータ活用のポイント
たくさんの事例を取り上げて簡単に見てきましたが、特に需要やリスクの予測が大きなウェイトを占めていることがおわかりいただけるでしょう。それらを過去および現在まで蓄積されたデータから採掘した傾向分析から導き出せれば、企業の業績向上や社会システムの効率化に結びつけることができるのです。
そうするためにデータマイニングで見出された情報については、「定性的、かつ定量的に」見ることが必要です。
事例を取り上げる中で何度か指摘してきましたが、「一部をサンプリングして全体の傾向を推計する統計学的手法ではなく、個別の顧客や契約者まで細かくとらえるのがビッグデータ」です。そこでは非常にニッチな領域に細分化されて、需要やリスクがとらえられてきます。
それらをとらえるところまでは定性的評価になりますが、それだけではなく定量的にもとらえる必要があります。そのうえで業種に合わせたデータの活かし方、あたらしい方針の立て方を考えます。
たとえば、ビデオやCDの販売・レンタルの例では、あるひとりのユーザーの購買履歴が重なるほどにその人の傾向がわかり、リコメンドの提案をすることでさらに売上を伸ばす可能性が広がります。この業種では、顧客全体がそうした個人の集まりですから、文字通り一人一人への対応が全体の利益を引き上げる可能性があります。
デンマークの風力発電機メーカーも同じです。顧客の数は少ないものの、1機ごとの納入代金は巨額になりますから、一人一人に向けての「かゆいところに手が届く」サービスは強力な差別化につながります。
しかしヤクルトの例は事情がちがいます。日本で見られるヤクルトレディによる販売ならともかく、オランダのようにスーパーでの店頭販売が中心となると、「一人一人」に顕微鏡的にピントを合わせても意味はありません。むしろヤクルトの例では、「1つのカテゴリーに100~150種もの商品があり、そういう自社商品同士で売上を食い合っていた」という問題があったのでした。「個別」に注目するあまり商品展開を細分化しすぎていたのです。おそらく、日本のビジネスモデルにおける商品展開をそのまま持ち込んでしまっていたのでしょう。
オランダの店頭販売中心というスタイルの場合は、「主力選手を重点的に強化する」方が有効でした。15本パックと7本パックへの営業資源の集中です。これが可能になったのは、データマイニングによりそれら2種類のパックの成績が定量的に把握されたからこそです。
音声データやテキスト文書といった非構造化データに対するデータマイニングでも事情は同じです。マシンは、顧客から発せられた言葉からキーワードを拾い上げますが、そのキーワードに対応する要望内容や苦情内容の頻度と対応に要するコストが定量的に評価されない限りは、事業運営の改善には役立ちません。
以上のことから、データマイニングを有効活用するためには、
・情報を定性的かつ定量的に見ること
・事業のスタイルに合わせて活用法を考えること
がもっとも肝要であることになります。マシンはデータの山から何らかの情報を掘り出してきますが、それをどう活かすかまでは教えてくれないのです。
次の記事では、「結局のところ、AIに何ができるのか」をまとめます。