AI・人工知能について 18・ビッグデータ 3

データマイニングによるビッグデータの活用・3

引き続き、データマイニングの活用事例を取り上げていきます。

 

続々・データマイニングで掘り出されるもの

ヤクルト・自社商品同士の顧客奪い合いをなくして売上アップ

日本ではヤクルトレディースが街に出て販売しているヤクルトですが、ヨーロッパ諸国ではスーパーなどでの店頭販売が中心です。

あるとき、ヤクルトのオランダ法人は、自社製品をめぐる市場の動向を調査することにしました。その調査過程で、ヤクルトの商品は「1つのカテゴリ内に100~150点あり、その商品同士で店の1つの棚を奪い合っている」という課題が明らかになりました。調査にたずさわったアナリストはさらに、売上データから「15本パックと7本パックを購入する客層は異なる」ことを発見します。女性客は少しずつ頻繁に購入し、男性客は大量パックをまとめ買いする傾向にあったのでした。

ここから、7本パック(通常サイズ)のとなりに15本パックを並べると、どちらの商品も売上を伸ばすことができました。こうした分析と改善を重ねた結果、オランダヤクルトは一年間で売上20%増を達成しています。

 

中規模業者もビッグデータで利益拡大

販売パターンを予想し、厳密な製造計画を立てて「在庫リスクを避け、しかも同時に売り切れによる機会損失も避ける」対策は自動車産業など大企業で行われてきました(トヨタの「カンバン方式」など)。しかし、ICTの進展により、中小規模の企業にもそうした取り組みが広がっています。

アンデルセンは広島県を本拠とし、全国に71店舗を展開するパンの製造・販売事業者。同社はANS(アンデルセンシステム)という販売管理システムにより、POSシステムからの販売履歴情報を解析、来店客数データを関連づけ、来店客数から商品売れ行きパターンを予測できるようにしました。それまでは店長の経験と勘で商品ごとの製造量を決めていたのですが、ANSで店長の負担が軽減され、より精度の高い製造計画が策定できるようになりました。

半年間で、ANSの導入店舗は1.1%の売上増加、非導入店は0.9%の売上減少という効果が観測されています。

 

ビッグデータで風力発電最大化を提案

デンマークに本社を置く Vestas Wind System社は、67カ国で45,000機の風力発電機を手がける世界でも最大手の風力発電機メーカーとして、30年以上のノウハウとデータの蓄積を持ちます。

この蓄積をビッグデータとして運用することで、単なるメーカーとしてだけではなく、「どこに設置すれば最大の効果が得られるか」を納入先のために考えるコンサルタント事業も行っています。天候、地形、潮の満ち引き、衛星写真、森林地図、気象モデルといったデータを利用し、発電量予測、設置面積、環境や景観への影響も考慮した設置場所の最適化を提案するとともに、稼働後の発電量も解析、最適なメンテナンススケジュールまで策定します。

それら大量のデータを解析するため、同社はスーパーコンピュータと並列処理ソフトを導入し、人間の専門スタッフでは3週間かかっていたデータ解析をわずか15分でできるようにしています。

こうした取り組みにより、同社は同業他社に対する競争力を高めました。

 

農業への活用・石川県羽咋市

ローマ法王に米を食べさせた男・高野誠鮮さんで知られる石川県羽咋市。農業のICT活用でも先進的です。

同市では、人工衛星やヘリコプターからの画像を利用し、米の味を測定するシステムを開発。一般においしい米はタンパク質の含有量が6.5%以下とされますが、近赤外線画像から低タンパク米を仕分けしています。おいしい米をブランド化することにより地元農家の利益を増やすとともに、移住者の増加、限界集落の状況改善といった効果を生んでいます。

同市はこのシステムをほかの自治体にも販売しており、そちらでも利益を上げています。

 

橋の状態をリアルタイム監視

NTTデータは、災害時の異常検知や点検・補修の優先度検討のために、変位、加速度、ひずみなど、橋梁の状態をリアルタイム・継続的に監視するソフトウェアを開発しました。橋など構造物の状態は温度や気候に影響されるため、長期間継続的にデータをとることが重要です。新ソフトウェアにより、メンテナンスを行うタイミングの測定などの精度が向上することが期待されています。

またこのソフトウェアは、風向、風速、雨量などの気象情報や、橋のひずみをもとに算出した通行車両の重量も把握できます。これらによって橋の通行規制を判断する材料が得られ、重量制限に違反した車両の検知も可能になります。

将来的には、橋への累積ダメージを算出することによって、必要な修復を警告できるようになることも期待されます。

 

ビッグデータ活用は、このように大企業だけではなく、今や中小企業、地方自治体などにも広がりつつあります。近い将来には移動体通信の高速・大容量化が実現する見通しもありますので、こうした動きはますます加速していくことでしょう。