データマイニングによるビッグデータの活用・1
データマイニングの手法について、代表的なものを紹介しましたが、もう少し具体的に、今現在ビジネスの領域でどんなことが実現されているのか、記事数本にわたって事例を紹介していきます。
データマイニングで掘り出されるもの
データマイニングでは、大量のデータさえ渡してしまえばAIが勝手に有意義な情報を掘り出してくれます。AIは特に、以下のようなものを示すのが得意です。
予測
たとえば、顧客の性別、年齢層、職業といった属性や、曜日、天候、気温、時間帯といったさまざまな条件のもとにどのような商品が売れる可能性が高いか、予測を立てることができます。これに合わせて仕入れや人員配置を行えば、効率的な経営ができます。
また、リース機器やメンテナンス対象機器などについても、使用年数、過去のトラブル履歴、使い方、使用環境などから、いつごろ、どのようなトラブルが次に起こるか、予想が立てられるようになります。人員配置はもちろん、部品の在庫も効率化できるでしょう。
分類と判別
アメリカで実際にあったとされる、なかば都市伝説になっている話です。あるスーパーマーケットで、おむつがよく売れる日には、なぜかビールも売れていることがデータ分析の結果発見されました。「おむつ」と「ビール」ですから、人間には結びつけて考えようという発想がなかったのですが、マシンは見つけたわけです。
ただ、マシンはその理由までは教えてくれませんでした。どうやら、おむつを買いに行くよう頼まれたパパが、ついでに自分が飲むためのビールも買っていくということだったようです。トイレットペーパーやおむつは、決して高価ではありませんが、とにかくかさばるので男手に頼みたいわけです。そのために生じた傾向でした。
こうした意外な発見があれば、もちろんマーケティングに活かせます。
相関関係の発見
「おむつとビール」もそうですが、ほかにもたとえば、オークションサイトでの不正出品や盗品出品を行うユーザーの挙動に共通点を発見していれば、それをもとに新たな不正出品を検出できる可能性があります。顧客の被害を未然にふせぐシステムを持たせられれば、信用も上がりますね。
似たようなシステムでもっと高度なものも実用化されています。街角によくある監視カメラでとらえた人物の「動作」の特徴から、犯罪を行おうとしているとマシンが見抜けるのです。「きょろきょろしている」とか、「意味もなく行ったり来たりしている」とか、「物陰に立ち止まって待ち伏せしているかのよう」とか、そういったあたりをチェックしているようです。
ビッグデータとデータマイニングの活用事例
では具体的な活用事例を見ていきます。
人間の常識をくつがえした例
消費者が広告チラシやメニューを見る時の視線の動かし方については、「Zの法則」というものがあります。すなわち、左上から右へ動き、次いで下の段の左に行ってまた右へという、ヨコ書きの文書を読むような視線の動かし方です。
ある缶入り飲料メーカーは、これにしたがい主力商品を自動販売機の左上から順に右方向に並べる作戦をとっていました。ところが、自動販売機にアイトラッキング機能を付けて調査したところ、自動販売機に限っては下段に注目が集まり、左から右へ動くことがわかりました。
そのため、主力商品を下段左側に配置したところ、売上が1.2%伸びたとのことです。
このように、人間の観察からは常識とされていたことが、ビッグデータからのデータマイニングによりくつがえされることもあります。
大規模チェーンでは細かい需要分析でスケールメリット最大化
ある大手回転寿司チェーンでは、すべての皿にICタグを付けてレーン上を流れる寿司の鮮度や売上をモニター、管理しています。年間10億件にもおよぶデータを蓄積し、需要を分析、予測することで、仕入れ提供量のコントロールにつなげています。なにしろ大手のチェーン店ですから、そうした細かい需要予想で削減できるコストも全体としてはかなりの額にのぼるのです。
このような需要予測はビッグデータの典型的な使い方と言えます。
顧客の好みをつかんで狙い撃ちセールス
ビデオ・CDのレンタルサービスチェーン店、ネット通販サイト、ビデオ・オン・デマンド業者などは、会員の利用状況のデータを蓄積し分析することで、会員ひとりひとりの趣味嗜好を把握、それに合わせてダイレクトメールで新作の紹介を行ったり、クーポンで購買意欲をさそったりと、ピンポイントで売り込みをかける戦術をとっています。
全体のごく一部をサンプリングして人気作品を拾い上げるマス・レベルの統計学的手法では、こうした個人ひとりひとりの好みはとらえられません。ビッグデータによってこそ可能になった販売戦術です。
「ロングテール現象」の利益効率を最大化
どの分野でも、新商品が次々に出されます。これは、どんな商品でも新味がなくなると売れ行きが鈍るからです。どの業者も、商品の新陳代謝で利益を確保していこうとします。
しかし時として、売れ行きが鈍るもののいつまでも根強く支持され、売れ続ける商品もあります。このように長く売れ続ける現象を「ロングテール」と言います。
「正直、あまり売れていないから生産中止にしてもいいのだが、そうしたら一部の熱烈な支持者から反発を受けそう」……そんな商品については、「ロングテール」を続ける判断もアリなのですが、しかしあまり多く生産しすぎてもコストに無駄が生じ、利益をそこなうことにもなりかねません。
そんなとき、ビッグデータによる需要予測により、ロングテール現象による利益を最大化するという方策が考えられます。
さて、次の記事でもビッグデータからのデータマイニング活用事例を紹介していきましょう。