ホーキング博士の言葉を出発点にして、AI・ロボットが広く普及する近未来社会について展望していきます。
人工知能AI・ロボットと人類の未来・1
前の記事で引用したホーキング博士の言葉、
「機械によってもたらされる富が分配されれば、全ての人が仕事から解放されて自由な時間を贅沢に楽しむことが出来るでしょう。逆に、機械の所有者が富の再分配への反対に成功すれば、ほとんどの人がどうしようもないほどの貧困におちいるでしょう」
ここに示された論点について考察します。近未来のテクノロジーの人間社会への影響ということで、ここでは人工知能だけでなく、ロボットも視野に収めます。
AI学者が予想する「今後10年で消える職業・なくなる仕事」
2014年のことですが、英オックスフォード大学のオズボーン准教授が発表した論文が世界に衝撃を与えました。ご記憶の方も多いでしょう。要は「IT技術の急速な進歩により、人間が行う仕事の約半分が機械に奪われる」という話でした。
オズボーン氏は、今後10年から20年ほどの間に消える職業・仕事として、具体的に以下のようなものを挙げています。
・銀行の融資担当者
・スポーツの審判 ・不動産ブローカー ・レストランの案内係 ・保険の審査担当者 ・動物のブリーダー ・電話オペレーター ・給与・福利厚生担当者 ・レジ係 ・娯楽施設の案内係・チケットもぎり係 ・カジノのディーラー ・ネイリスト ・クレジットカード申込者の審査係 ・集金人 ・パラリーガル・弁護士助手 ・ホテルの受付係 ・電話販売員 ・仕立屋 ・時計修理工 |
・税務申告書代行者
・図書館員の補助員 ・データ入力作業者 ・彫刻師 ・苦情処理・調査担当者 ・簿記・会計・監査事務員 ・検査、分類、見本採取、測定を行う作業員 ・映写技師 ・カメラ、撮影機器の修理工 ・金融機関のクレジットアナリスト ・眼鏡・コンタクトレンズの技術者 ・殺虫剤の混合・散布の技術者 ・義歯制作技術者 ・測量技術者、地図作製技術者 ・造園・用地管理作業員 ・建設機器のオペレーター ・訪問販売員、路上新聞売り、露天商人 ・塗装工、壁紙張り職人 |
たしかにこれは消えるだろう、とわかるような気がするものもありますが、一方で「えっ、こんな職業も?」というものもありますね。
従来、人力の機械による置き換えは、身体を使った作業について行われるのが主でした。それが人工知能の時代になりますと、かなり知的な能力を求められる作業にまで広がってきます。
そこでまず、人工知能がどこまでの知的能力を発揮できるのか、そのレベルを整理します。
人工知能・4つのレベル
人工知能研究開発の歴史に対応するのですが、ここではそれに深入りせずに、これまで人工知能が到達したレベルから、現在進行中で進歩しているレベルまでを見ます。
レベル1 ……単純な制御プログラム
一番単純な例は「自動ドア」です。センサーでドアの前に来る人の存在をとらえ、ドアを開けます。
もう少し複雑になって、例えばエアコンが赤外線センサーなどにより室内の温度分布を認識し、さらに人の位置や在室時間、姿勢・動作も認識したうえで、温度・風量・風向を調整して動作するようですと、メーカーとしては売り文句として「快適AI搭載!」と呼んだりします。対応パターンを多様化・複雑化するアルゴリズムが組み込まれていますが、長い歴史のある制御工学の延長上です。
レベル2 ……古典的なAI・弱いAI
対応パターンが非常に多様で複雑になったものです。将棋やチェスのプログラム、掃除ロボット、診断プログラムに使われるエキスパートシステムなどが例に挙げられます。特定分野に特化している点と、アルゴリズムが固定されている点ではレベル1と同じですが、例えば将棋プログラムでは、次に指す手に対して相手が指す手、それに対して指す自分の手……というふうに多岐に枝分かれしていく(IF分岐)可能性をスコア化して評価し手を選んでいく、かなりの高速演算が必要になります。このレベルがレベル2です。
レベル3 ……機械学習で対応パターンを自動的に獲得するAI
引き続き将棋プログラムを例に説明します。レベル2の将棋プログラムは、一手ごとにIF分岐を調べてスコアをとっていきますが、レベル3の将棋プログラムは、過去の膨大な棋譜を学習していて、それを元に最善と考えられる一手を指していくようになります。対局を重ねるごとに棋譜データも蓄積されていきますので、この将棋AIは勝負を重ねるたびに強くなります。ただし、有意義な対応パターンを見つけるポイントは、あらかじめ人間が指示しなければなりません。
検索エンジンやビッグデータ分析に用いられます。迷惑メールフィルターにも応用されます。
レベル4 ……対応パターン獲得の重点も自力で獲得するAI
レベル4は「ディープラーニング」を取り入れたAIです。「何を学べばいいのか」も自力で学びます。詳しくは別の記事で説明しますが、画像、音声、動画などのデータを大量に経験させ、そのデータが持つさまざまな特徴を受け止めてスコアを付け、そのスコアを互いにやりとりする「ニューラルネットワーク」を通じて判断し、何が写っているか、何と言っているか、何が起きているかの理解を出力します。その際に入力データに同梱された「正解」もチェックし、外れがあれば特徴のスコア付けを見直していくというトライ&エラーを重ねて精度を上げていきます。こうしてAIが対応パターンを打ち出す思考の基礎データを、機械自身が充実させていくわけです。
3D顔認証、医療画像診断支援、自動運転車の危険認識などに応用されます。
このように見て参りますと、レベル4まで来ると人工知能は経験を通じて自発的に知識を広げますので、短期間に高度な判断力を備えていくようになります。車の自動運転など、フレーム問題(これも別記事で紹介します)が大きくなりがちな分野では未だ実験段階で、まだまだ積み重ねが必要なところもありますが、金融など応用が簡単な分野ではすでに実用化されています。
例えば、株価を決める要素は大きく「ファンダメンタル」、つまりその会社の業績や財務体質の面と、「テクニカル」、つまり市場での注目度(出来高)や値動き(買われすぎ、売られすぎ)、トレンドという2つがあります。ファンダメンタルを表す財務諸表やプレスリリースは書式が決まっていますので、機械でも容易に理解できます。テクニカルについてもRSI、ボリンジャーバンド、一目均衡表など指標を与えるツールが昔からあり、経験則からの対処法もほとんど確立されていますので、これを機械に教えるのは簡単です。あとはAIがトライ&エラーを重ねて、より儲かるやり方を洗練させていけばいいのです。
事実として、アメリカのある大手証券会社では、2010年に600人もいたディーラーが、2016年にはたった2人になっています。
人が機械に取って代わられる現実はすでにあり、そして今後ますますよく見られるようになるであろうことは、もはや必然です。
では、そのことによって経済・社会はどのような影響を受けるでしょうか。
そのことについて、次の記事に書いていこうと思います。